栞 (しおり)

白【四・五】芥川龍之介作 朗読ライブ

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今日の朗読は「白」【四・五】

 

朗読は、4:45(4分45秒)のところからです。

 

 

 

セルフレッスン

 

昨日の自分へ、自分が先生となってコメントします。

 

 

朗読以外のおしゃべりについて

 

もう少しテンポ良く話せたらいいですね。

そのためにはあらかじめ何を話すか、ある程度決めましょう。(メモ必須)

 

「の」の音が不明瞭ですね。気を抜かないように。

 

私独特の接続詞?がありますね。

おそらく「それでは」と同じ意味で自然にでてしまうのでしょう、

「そワぁ」みたいな音が気になりますね。

 

聴き手が「気になる」のは、発信者として不親切ですね、

滑舌トレーニング、発声練習、心掛け、頑張りましょう^^

 

朗読について

 

この物語の一番最後のセリフ、読み間違いがありましたね。

 

「へっ、兄さんだって泣いているくせに!」

 

兄さん❌ 

姉さん⭕️

 

焦りましたね。終わったあと、音楽かける手が動揺して震えていましたね?笑

 

あとからリスナーさんがメッセージくださいましたね、「兄さん⁇」ってびっくりした、と。

 

そうなんです、こういう間違いは聴き手さんをびっくりさせてしまいます。

朗読者として、気をつけなければなりませんね。

 

実は、一番びっくりしたのは、読み手である自分だったりしますが・・・。

 

 

アクセントの間違いが多かったですね。

 

伝えられています→伝えら\れています。

危うい→あやう\い

黒犬こそ→黒犬こ\そ

勇敢なる→ゆうかんな\る

テント糧食等→テントりょ\うしょく・と\う

 

(\の次が下がるという意味で使用しています。)

 

サ行、シャ行が少し不明瞭ですね。

 

朗読の時は、気を緩めず、一拍、一拍の音と、言葉をはっきりと発音するように心がけましょう。

 

とはいえ、以前(発声練習に出逢う前)より、ずいぶん明瞭な発声になっていますよ。

 

「白」の朗読全体を通して

 

【一・二】でできていたことが、【三】でできていなくて、

【四・五】でそれをまた取り戻そうとして、すると、読みが早くなった。

 

どういうことかというと、

 

【一・二】では、一文をできるだけまとめて読み、一文と一文の間にしっかり適切な間をとり、

伝わりやすく読もうとしていました。

が、【三】では、それができておらず、読点のないところでぶつぶつ切って読んでいました。

その上に、間をとったもんだから、なんだか間延びした感じと、いやらしいじらし、のような間合いになりました。

【四・五】は、アクセント、や読み間違いが多かったですね。

 

ということで・・・

 

「はい、やり直し!」笑

 

やり直し後の「白」全文朗読はこちら

 

 

 

青空文庫さんより引用

 そののちの白はどうなったか?――それは一々話さずとも、いろいろの新聞に伝えられています。おおかたどなたも御存じでしょう。度々たびたびあやうい人命を救った、勇ましい一匹の黒犬のあるのを。また一時『義犬ぎけん』と云う活動写真の流行したことを。あの黒犬こそ白だったのです。しかしまだ不幸にも御存じのないかたがあれば、どうかしもに引用した新聞の記事を読んで下さい。
 東京日日新聞。昨十八日(五月)午前八時四十分しじっぷん奥羽線上おううせんのぼり急行列車が田端駅たばたえき附近の踏切ふみきりを通過する際、踏切番人の過失にり、田端一二三会社員柴山鉄太郎しばやまてつたろうの長男実彦さねひこ四歳しさい)が列車の通る線路内に立ち入り、危く轢死れきしげようとした。その時たくましい黒犬が一匹、稲妻いなずまのように踏切へ飛びこみ、目前にせまった列車の車輪から、見事に実彦を救い出した。この勇敢なる黒犬は人々の立騒たちさわいでいるあいだにどこかへ姿を隠したため、表彰ひょうしょうしたいにもすることが出来ず、当局は大いに困っている。
 東京朝日新聞軽井沢かるいざわに避暑中のアメリカ富豪エドワアド・バアクレエ氏の夫人はペルシア産の猫を寵愛ちょうあいしている。すると最近同氏の別荘へ七尺余りの大蛇だいじゃが現れ、ヴェランダにいる猫を呑もうとした。そこへ見慣みなれぬ黒犬が一匹、突然猫を救いにけつけ、二十分にわたる奮闘ののち、とうとうその大蛇をみ殺した。しかしこのけなげな犬はどこかへ姿を隠したため、夫人は五千ドルの賞金をけ、犬の行方ゆくえを求めている。
 国民新聞。日本アルプス横断中、一時行方ゆくえ不明になった第一高等学校の生徒三名は七日なのか(八月)上高地かみこうちの温泉へ着した。一行は穂高山ほたかやまやりたけとのあいだみちを失い、かつ過日の暴風雨に天幕テント糧食等を奪われたため、ほとんど死を覚悟していた。しかるにどこからか黒犬が一匹、一行のさまよっていた渓谷けいこくに現れ、あたかも案内をするように、先へ立って歩き出した。一行はこの犬のあとに従い、一日余り歩いたのち、やっと上高地へ着することが出来た。しかし犬は目の下に温泉宿の屋根が見えると、一声ひとこえ嬉しそうにえたきり、もう一度もと来た熊笹くまざさの中へ姿を隠してしまったと云う。一行は皆この犬が来たのは神明しんめいの加護だと信じている。
 時事新報。十三日(九月)名古屋市の大火は焼死者十余名に及んだが、横関よこぜき名古屋市長なども愛児を失おうとした一人である。令息武矩たけのり(三歳)はいかなる家族の手落からか、猛火の中の二階に残され、すでに灰燼かいじんとなろうとしたところを、一匹の黒犬のためにくわえ出された。市長は今後名古屋市に限り、野犬撲殺ぼくさつを禁ずると云っている。
 読売新聞小田原町おだわらまち城内公園に連日の人気を集めていた宮城みやぎ巡回動物園のシベリヤ産大狼おおおおかみは二十五日(十月)午後二時ごろ、突然巌乗がんじょうおりを破り、木戸番きどばん二名を負傷させたのち箱根はこね方面へ逸走いっそうした。小田原署はそのために非常動員を行い、全町にわたる警戒線をいた。すると午後四時半ごろ右の狼は十字町じゅうじまちに現れ、一匹の黒犬とみ合いを初めた。黒犬は悪戦すこぶる努め、ついに敵を噛み伏せるに至った。そこへ警戒中の巡査もけつけ、直ちに狼を銃殺した。この狼はルプス・ジガンティクスと称し、最も兇猛きょうもうな種属であると云う。なお宮城動物園主は狼の銃殺を不当とし、小田原署長を相手どった告訴こくそを起すといきまいている。とう、等、等。

 ある秋の真夜中です。体も心も疲れ切った白は主人の家へ帰って来ました。勿論もちろんお嬢さんや坊ちゃんはとうにとこへはいっています。いや、今は誰一人起きているものもありますまい。ひっそりした裏庭の芝生しばふの上にも、ただ高い棕櫚しゅろの木のこずえに白い月が一輪浮んでいるだけです。白は昔の犬小屋の前に、つゆれた体を休めました。それから寂しい月を相手に、こういう独語ひとりごとを始めました。
「お月様! お月様! わたしは黒君を見殺しにしました。わたしの体のまっ黒になったのも、大かたそのせいかと思っています。しかしわたしはお嬢さんや坊ちゃんにお別れ申してから、あらゆる危険と戦って来ました。それは一つには何かの拍子ひょうしすすよりも黒い体を見ると、臆病をじる気が起ったからです。けれどもしまいには黒いのがいやさに、――この黒いわたしを殺したさに、あるいは火の中へ飛びこんだり、あるいはまた狼と戦ったりしました。が、不思議にもわたしの命はどんな強敵にも奪われません。死もわたしの顔を見ると、どこかへ逃げ去ってしまうのです。わたしはとうとう苦しさの余り、自殺しようと決心しました。ただ自殺をするにつけても、ただ一目ひとめ会いたいのは可愛がって下すった御主人です。勿論お嬢さんや坊ちゃんはあしたにもわたしの姿を見ると、きっとまた野良犬のらいぬと思うでしょう。ことによれば坊ちゃんのバットに打ち殺されてしまうかも知れません。しかしそれでも本望です。お月様! お月様! わたしは御主人の顔を見るほかに、何も願うことはありません。そのため今夜ははるばるともう一度ここへ帰って来ました。どうか夜の明け次第、お嬢さんや坊ちゃんに会わして下さい。」
 白は独語ひとりごとを云い終ると、芝生しばふ※(「月+咢」、第3水準1-90-51)あごをさしのべたなり、いつかぐっすり寝入ってしまいました。

       ×          ×          ×

「驚いたわねえ、春夫さん。」
「どうしたんだろう? 姉さん。」
 白は小さい主人の声に、はっきりと目をひらきました。見ればお嬢さんや坊ちゃんは犬小屋の前にたたずんだまま、不思議そうに顔を見合せています。白は一度挙げた目をまた芝生の上へ伏せてしまいました。お嬢さんや坊ちゃんは白がまっ黒に変った時にも、やはり今のように驚いたものです。あの時の悲しさを考えると、――白は今では帰って来たことを後悔こうかいする気さえ起りました。するとその途端とたんです。坊ちゃんは突然飛び上ると、大声にこう叫びました。
「お父さん! お母さん! 白がまた帰って来ましたよ!」
 白が! 白は思わず飛び起きました。すると逃げるとでも思ったのでしょう。お嬢さんは両手を延ばしながら、しっかり白のくびを押えました。同時に白はお嬢さんの目へ、じっと彼の目を移しました。お嬢さんの目には黒い瞳にありありと犬小屋がうつっています。高い棕櫚しゅろの木のかげになったクリイム色の犬小屋が、――そんなことは当然に違いありません。しかしその犬小屋の前には米粒こめつぶほどの小ささに、白い犬が一匹坐っているのです。清らかに、ほっそりと。――白はただ恍惚こうこつとこの犬の姿に見入りました。
「あら、白は泣いているわよ。」
 お嬢さんは白をきしめたまま、坊ちゃんの顔を見上げました。坊ちゃんは――御覧なさい、坊ちゃんの威張いばっているのを!
「へっ、姉さんだって泣いている癖に!」

(大正十二年七月)

 

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